今回、看護師の転職事情についてお話を伺ったのは、看護師歴15年の坂本 薫(さかもと かおる)さんです。
坂本さんはもともと赤十字病院の看護師として働いていましたが、美容外科クリニックの看護師に転職。その後独立し、現在は西東京市ひばりヶ丘北でエステサロン「カオルフルール」を経営しています。
これまでさまざまな医療現場に携わり、転職を成功させた坂本さんの実体験や経営者としての雇用側の視点から、転職に成功する人の特徴を徹底調査。転職活動におけるポイントや心構えなども伺ったので、看護師の転職でお悩みの方はぜひ参考にしてください。
東京都西東京市ひばりヶ丘で「プライベート ケア サロン カオル フルール(Private care salon Kaoru fleur)」を主宰。正看護師の資格を持ち、医療現場での経験を活かして、特に更年期世代の女性を対象に、女性ホルモンバランスのケアやリンパマッサージ、整体、頭蓋骨矯正などの施術を提供する。
資格
- 国家資格 正看護師
- 日本化粧品検定1級
- 美容薬学検定1級
- 五味式整体(新座市いちかわ治療院)
- トータル女性ホルモンバランスプランナー®
- ICAAリンパ浮腫専門医療従事者
- 1 まず坂本さんのこれまでのご経歴を教えてください。
- 2 看護師として働かれていた坂本さんが転職を考えられたのは、どのようなきっかけがあったのですか?
- 3 坂本さんがもし同僚から転職の相談をされたら、どういった転職先をおすすめしますか?メリットだけでなく、デメリットもあったら教えてください。
- 4 転職したいと考えたら、どれくらいの準備期間が必要ですか?また転職におすすめの時期や決まりやすいタイミングなどはありますか?
- 5 転職活動で、やったほうが良いことはありますか?
- 6 坂本さんのように「独立起業」を考えている看護師の方もいると思います。どういった事業内容だと成功しやすいといったことはありますか?
- 7 最後に、転職を考えている看護師の方へメッセージをお願いします。
まず坂本さんのこれまでのご経歴を教えてください。

短大卒業後、看護師として武蔵野赤十字病院に就職して約3年半勤務したのち、湘南美容クリニックに転職しました。
今でこそ誰でも気軽に施術できるようになった美容整形ですが、当時はメジャーではありませんでした。
当然看護師界隈でも美容外科クリニックに転職する人は多くいませんでしたが、人材紹介サービスに勤務の希望条件を提示したら、該当したのは美容外科クリニックのみ。いくつか店舗を見学させてもらい、そのなかで最も自分のスキル・キャリアアップにつながると感じた病院が湘南美容外科クリニックでした。
そこでは約12年間勤務して、2回の産休・育休を経験しました。若くてエネルギーのある会社だったので、スタッフとして施術をおこなう傍ら顧客満足度向上委員会といった組織の風土醸成に携わるなど、経営の観点でも学ぶ機会を多くいただいたと思います。
2人目の育休後はワーキングマザーとしての働き方を次の世代に残したいと、社内マニュアルの作成に企画提案として携わりました。
ただ仕事は楽しかったのですが、長いあいだ身体の不調が続いていて。整体やマッサージなどさまざまなアプローチを試みて改善したことをキッカケに、「自分と同じように身体のことで悩んでいる女性やワーキングマザーをケアしたい」と、36歳で独立を決意。この美容サロンを設立しました。
看護師として働かれていた坂本さんが転職を考えられたのは、どのようなきっかけがあったのですか?
最初に転職を検討し始めたのは、赤十字で働いていた看護師3年目の頃。通常の業務に加えて後輩の指導や委員会、発表など、とにかく役割が増えて体力的に限界を感じたタイミングでした。
当時は常に知識をアップデートしておかなければと休日も勉強していました。寝不足になって、無駄な残業が増えて……と、とにかく生活サイクルが悪循環になり、身体を壊したのが大きな理由です。
しばらく休職したのち、転職エージェントを活用して転職活動を始めました。
編集部のコメント
看護師にはラダー評価という制度があり、一人前とされるレベルになるには大体3年ほどかかるのが一般的。坂本さんは看護師1年目から「辛いことがあっても、3年は頑張ろう」と自分のなかで決めており、それをクリアしてから退職されたそうです。
看護師で転職を考える人は、一定数いるのでしょうか?どのような理由が多いかも教えてください。
私がそうだったように、体力的な問題を抱えている人や結婚や出産などのライフステージの変化を機に少し給料が下がっても良いから「夜勤のない仕事に転職したい」という人は多いかもしれません。
ほかには理想と現実のギャップ、人間関係なども理由としては多いですね。
看護師になって痛感したのは、施術スキルと同じくらいコミュニケーションスキルが重要だということです。
1年目から先輩に同行してチームの一員として動くので、協調性が求められます。患者さんとのやり取りはもちろん、医師や看護師同士も同様にうまくコミュニケーションを図る必要があります。
編集部のコメント
なかには患者さんの生死に触れてメンタルを崩してしまう人もいるそうで、「自分の不勉強さが患者さんの不幸を招いてしまうというプレッシャーはあります」と坂本さん。看護師という仕事のシビアさを感じました。
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転職先としては、どういったところへ転職する方が多いですか?また、人によって傾向はありますか?
看護師という国家資格が最大限に活かせる「病院から病院への転職」が多い一方で、病院から別業態の施設に転職する人も少なくありません。
特に介護職は看護師と親和性が高く、対処法は違えど誰かをケアしたりサポートしたりする目的は同じ。ケアマネージャーの資格を取得して介護業界に転職する看護師も一定数いますね。
また人間関係が理由で転職を検討する人は、一対一で患者さんと向き合う訪問介護が向いているかもしれません。
逆を言えば自分一人で何でも判断していかなければならないので、組織で働くのとは違う大変さはあります。その人の興味関心や適正によるので一概にメリット・デメリットは言えませんが、病院以外でも資格を活かせる場所はあるでしょう。
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坂本さんがもし同僚から転職の相談をされたら、どういった転職先をおすすめしますか?メリットだけでなく、デメリットもあったら教えてください。
最近の傾向として大学病院や大手クリニックでは新卒しか採用しない傾向が高まっており、中途採用は厳しい印象です。
しかし訪問看護業界や小さなクリニック・美容クリニックは慢性的に人材不足が続いているため、引く手あまた。転職を検討するなら病院や大手に限定せず、幅広い視野で求人を検索すると良いと思います。
転職したいと考えたら、どれくらいの準備期間が必要ですか?また転職におすすめの時期や決まりやすいタイミングなどはありますか?
転職の準備期間は人それぞれですが、求人に関しては4月入社で募集を出す病院や施設が多い印象です。
ただ一般企業や小さなクリニックの場合は一概に言えない部分があるので、常に情報をチェックしておいたほうが良いですね。
退職が決まったら、注意してほしいのが現職場に退職報告するタイミングです。退職の報告は、早すぎても遅すぎてもNG。引き継ぎ業務を考慮すると、約1ヶ月前が良いでしょう。
転職希望日を自分のなかである程度決めて、逆算して行動しましょう。
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転職活動で、やったほうが良いことはありますか?
転職サイトやエージェントに登録せずとも転職に成功している人は一定数いますが、まずは1つでも登録してみて、自分の相場を知ることが重要です。
また転職エージェントは複数登録するのがおすすめではありますが、エージェントによっては押しが強すぎて、しんどい思いをする人もいるかもしれません。担当者が合わないと感じたら、すぐに変更してもらいましょう。
気になる病院・施設があれば、できるだけ直接見学に行きましょう。知人の話ですが、見学のつもりで訪問したら面接を受けられることになったというケースもあります。
病院やクリニック側の視点から考えると、エージェントを介さない直接採用のほうがコストがかからないため、採用されやすいのだと思います。
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一般的に、転職の志望動機はネガティブなことは書かないほうが良いとされていますが、特に看護師が病院から病院へ転職する場合は病院のネガティブな部分が志望動機になりやすいように感じます。志望動機の良い例や悪い例があったら教えてください。
一般的な企業転職と同様、看護師の転職でもネガティブな志望動機は敬遠されがち。志望動機には「キャリアアップのため」という視点が必要です。
何が自分にとってのキャリアアップにつながるかは、自分の言葉で語れるようにしておきましょう。
また志望動機を「通勤・立地」や「勤務形態」といった条件面に終始するのもNGです。
それらの動機は、企業側からすると関係ないこと。それよりも企業や施設の理念に共感し、会社の成長をともに支えたいと考えている人を採用したいと考えるのが一般的ですね。
年収交渉や勤務条件の交渉は、現実的にどれくらい可能なものでしょうか?
正直に言うと、選考の段階から年収交渉をするのは難しいでしょう。
ただ、どれくらいの勤務期間でどういった成果を上げれば年収を上げてもらえる可能性があるのか、ということは確認しても良いかもしれません。
一方で、譲れない勤務条件があるなら必ず面接の最初に提示してください。
例えば、「週末勤務可能」という条件で入社したのに、入社後に頻繁に週末休みを希望すると、話が違うとトラブルになってしまう可能性があります。
ほかにも看護師求人では見込み残業を含めた給与額を提示しているクリニックがあるので、定時で帰りたいと考えている人は事前に確認しておく必要があります。
坂本さん含め、転職に成功している人の特徴があったら教えてください。
採用されやすい人の共通項をあげるとすると、明朗で誠実性がある点ではないでしょうか。
私も美容サロンを開業して採用する側となりましたが、もし選考するとなると、明朗・誠実性に加えて企業や施設とともに成長できる人、成長したいという意欲がある人を採用したいと考えます。
また看護師という職業においては、技術的な看護スキル以外に社会人としての基礎力も重要です。
社会人基礎力とは「職場や地域社会の中で多様な人々とともに仕事をおこなっていくうえで必要な基礎的な能力(※)」として、経済産業省が提唱している概念のこと。
※経済産業省「社会人基礎力」
問題解決力やチームで働く力など、3つの能力と12の能力要素で構成されており、社会人としての基本的な知識や技術を持ち合わせているかを確認できます。
例えば、同じ資格を持っている人が同時に応募してきた場合、面接官がどういった観点で採用を決めるかというと、私は社会人基礎力や内面(心)が決め手になるのではないかと感じています。看護師としての技術的なスキルはもちろん重要ですが、日頃から内面(心)も同様に磨いておきたいですね。
編集部のコメント
社会人基礎力については経済産業省のサイトでチェックシートが公開されているので、自分の能力を確かめるためにもぜひ参考にしましょう。
※経済産業省「インターンシップ・社会人基礎力自己点検シート」
反対に、看護師の転職でなかなかうまくいかないという人は何が原因だと考えられますか?また坂本さんの肌感で、看護師の転職はどれくらいの難易度があると感じられますか?
看護師の転職でなかなかうまくいかない人は、面接で志望動機がうまく伝わっていないかもしれません。
看護師の面接では、必ずと言って良いほど在職期間や退職理由について質問されます。
前職の退職理由がネガティブな内容だったり、短い在籍期間で転々と転職が続いたりしている場合は「また辞めてしまうかも」と思われて採用が見送りになる可能性が高いでしょう。
看護師の転職難易度は、希望する職場と転職者の経験値や資格によって大きく変わるため、一概には言えません。
また多様な働き方がある分、職場によって求められるスキルも異なります。
看護師の場合は一人前になると、そのまま現場の第一線で働きたいか、それとも管理職を目指すのか、どのようなキャリアを歩みたいのかを考える必要があります。そのキャリアを前提に応募先を定め、企業研究を進めましょう。
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坂本さんのように「独立起業」を考えている看護師の方もいると思います。どういった事業内容だと成功しやすいといったことはありますか?

看護師が独立起業する場合、そのほとんどは訪問看護事業です。
私の周辺では、美容系ならアートメイクナース、看護師以外の仕事だと、動物ナースや保育士、子ども向けのイベント会社などで成功している知人がいますね。
自身の強みを踏まえたうえで、「やりたいこと」「成功しそうなこと」を模索していくと良いでしょう。
私個人の話をすると、やはり自分自身の強みをより一層高めるために「リンパ浮腫専門医療従事者」というプラスアルファの知識をつけました。
独立企業に限らず、看護師に異なる分野の専門資格をプラスすれば、転職活動においてもかなりのアピールに繋がると思います。
最後に、転職を考えている看護師の方へメッセージをお願いします。
私自身、転職とは車の乗り換えのようなものだと考えています。
たとえ転職理由がネガティブな内容だったとしても、自分が成長するチャンスなんだとプラスに捉えて取り組むことが大切。最近では40代以降の看護師転職も増えているので、年齢を言い訳にせず楽しみながら取り組んでほしいですね。
そして転職で心がけて欲しいのは「目的意識を持つこと」です。
なんとなくでも良いので「こんな仕事をしたい」「こんな風になりたい」という気持ちが頭の中にあれば、そのモヤモヤを頑張って言語化してみてください。
やりたい仕事を実現する=希望の職場に就職するためには、どういう自分になれば良いのか。ゴールからスタートを逆算して進めると良いですよ。
ただし常に目標を高く持って、まい進し続けるのは大変なこと。「私ならもっとできる」と心のエンジンを回し続けていると、途中で心が追いつかなくなることもあると思います。
そのようなときは、「自己効力感」がポイント。自分ならできると自信を持って、転職活動を進めてくださいね!
転職UPPPは「あなたらしい働き方」を考える転職メディア。従来のキャリアアップ目的の転職ではなく、ライフステージごとの満足度を高めて自分らしく生きるために“ステージアップを応援”できるような情報発信を目指しています。